デズモンド・ツツ氏の手紙

イラン政府による「知識剥奪への挑戦」―世界中の学識者への公開状——

この数世紀における人類の大きな進歩の原動力は、情報へのアクセスの拡大、意見交換の促進、そして世界のほとんどの地域における普遍的教育の普及に他なりません。

教育の自由と情報の自由は思想の自由に不可欠です。人類の進歩の多くは、新しい世界観と新しい思想の確立によって実現してきました。

それゆえこの21世紀に、専制的統治者や独裁者が教育の機会を奪い、情報へのアクセスを制限することによって、自国民を従属させようとしている事態には驚愕を禁じ得ません。

そのような政策は長期的には無益なだけでなく、それらの統治者は今の時代そのものを恐れ、自分たちの国で新しい考え方を打ち出している人々を脅威としてとらえているかのように見えます。

今日、こうした恐れを最も如実に示している例が、イランのバハイ信教メンバーに対する高等教育の機会剥奪といえます。バハイは政治的目標を持たず、全ての宗教の調和を掲げる平和な宗教です。

イランのバハイ共同体は、1987年、信仰を理由に、政府によりイラン国内の大学から追放された後、臨機応変に対応し、バハイ高等教育機関(BIHE)を組織することにしました。それは、教師の私宅の台所や居間を教室にして大学レベルの授業を提供するという、イラン全域に広がる教育ネットワークです。信仰のために大学から追放されたバハイの教職員達だけでなく、解雇や投獄の危険を冒してまでもこのネットワークを支援し、若者の教育に関わったイスラム教の学者もこの運営の輪に加わったのです。

BIHEは資格のある教師陣に支えられ、教科学習の質も高く、イラン国外の50以上の大学で単位が認められています。そのおかげで学生達は国外の大学院レベルの修学が可能となりました。こうした建設的な解決策により、やり甲斐のある専門的な職業への道を閉ざされていた数千ものバハイの学生達は救済されました。

しかし、2011年5月21日、BIHEは攻撃を受けました。イラン政府関係者がバハイの私宅30軒を家宅捜査し、10人以上の教師や運営関係者が身柄を拘束されました。逮捕された人たちは政治的指導者でも宗教的指導者でもありません。会計学、歯科学を含む教科の講師達です。今日、彼らは禁固数十年の判決を下される可能性に直面しています。バハイの若者に高等教育を与えたというのが彼らに対する罪状です。

イラン国内における教育抑圧はバハイ信者だけに限定されてはいません。信条、あるいは政府与党の方針に反対や改革を求める姿勢を持っているという理由で、大学から除籍処分を受けた若者達もいます。イラン政府関係者は、法律、哲学、経営、政治学を含む、社会学の12の学科のカリキュラム内容を、自分たちのイスラム解釈にもっと緊密に沿わせるために改訂中であり、それが終るまではこれらの学科を新たに教えることを禁止しているのです。社会学の履修内容の約7割は政府関係者によって書き直されると報告されています。

しかしながら、こうした行動は、イスラム教あるいはその教義によって決定づけられたものではないことを認識することが大切です。ヨーロッパの暗黒時代やスペインの異端審問を振り返れば、イランのアーヤトッラー達よりも前から、自分達の権力を脅かす思想や知識を弾圧する手段として宗教が利用されてきたことがわかります。イランの思想や芸術面の豊かな伝統、世界中のイラン人学識経験者による様々な貢献、BIHEの活動を援助し支持してきたイスラム社会の人々による行動をみれば、政府指導陣の所業が、イスラムで教えるものでも、イラン社会の善意のイスラム教徒達の考えを反映したものでもないことは明らかです。

私たちは、昔も、また今のこのインターネットの時代も、知識の追求を抑圧しようとしても無益であると確信していますが、イランでは、数多くの人が、知識を得ようとするだけで生命を脅かされ、損害を受けているのです。

彼らは私達の支援を必要としています。

私達はここに、こうした抑圧的な法律によって苦しめられている人たちを支援するよう世界中の学識経験者に呼びかけます。

私たちは世界中の学識経験者に、具体的に次のような要請をします:

1.  現在拘束されているBIHEの教師達を即時、無条件解放し、教育活動に関与したことによる告訴を取り下げるよう、イラン政府に要求する。

2. 学識界のリーダー、学校経営陣、教員として、あらゆる可能なルートでイランの学識界の

関係者に、信仰や政治的信念を理由に個人を高等教育から除外したり、すでに確立してい

る学習分野を大学のカリキュラムから除去、もしくは改悪したりするようないかなる政策

にも合意、あるいは承認しないことを表明をする。
3. BIHEの教育課程を終了した生徒がさらに高度の学習ができるよう、自らが勤務する大学

にBIHEの教科学習の質を精査し、その単位が認められるかどうか、検討するように促す。

4. できる限り、また必要であれば奨学金制度を使い、高等教育の機会への権利を剥奪される、

もしくは、イラン政府による社会学の履修制限のため本国では履修選択が狭められるであ

ろうイランの学生達に、オンラインで大学レベルの学習課程を提供する。
ご支援ありがとうございます。

よろしくお願い申し上げます。

デズモンド・ツツ大主教